学力偏差値(がくりょくへんさち)とは、学力試験の受験者の得点が、受験者全体の中でどの程度高い(低い)位置にいるかを示す偏差値。

定義

統計学に基づいて定義され、標準得点の一種である。学力試験の得点分布が正規分布に従うと仮定しており、上位何%にいるか(受験者の得点が受験生全体の中でどれくらい高い・低いか)を知ることができる。

データを標準化する(平均と標準偏差を一律にする)ことで、満点点数や母集団が異なる試験同士でも一律に比較でき、「個々の学力試験の学習到達度」「受験における合格可能性の判定」に利用される。

算出方法に関しては

平均偏差値とボーダー偏差値

大学受験などにおいて、大手予備校が公表しているものには「平均偏差値」と「ボーダー偏差値」が存在する。どちらも各予備校が模試を受けた受験生に対し、追跡調査を行い「模試の成績」と「各大学の受験結果(合否)」を照らし合わせ算出するが、両者が示すものは全くの別物である。

大学ブランドと偏差値信仰、その破綻

日本においては、「入学難易度の高い学校=良い学校」という「各大学の入学に必要な学力偏差値の高さ=各大学のブランド」としての意味合いを持ってきた。

学力偏差値が、日本で導入されたことによって全国の大学が分かりやすくランキング化され、東大を頂点とするヒエラルキーが出来上がり、大学のブランドは、偏差値のランキング中心で形づくられるようになった。

その結果、受験生は「偏差値の高い大学へ行けば、卒業した後によい企業に就職することができ、将来の収入が高くなる」と考え、また雇用者側は労働者の能力を出身大学の偏差値で判断することにより、「偏差値の高い大学・学部」に合格することが目的化し、偏差値を軸に大学を選ぶ時代が続いていた。

偏差値操作

受験生が学校を選ぶ指標として、上記のような「ブランドとしての学力偏差値」が使用される実態があり、多くの学校が「偏差値操作」を行っている実態がある。

  • 基本原理
    • 「受験予備校が各大学の偏差値比較に用いる偏差値・メディアに掲載される偏差値を『意図的に操作し高くする』こと」である。大学が「複数ある入試回・方式」を用意していても、受験予備校やメディアが注目・掲載するのは「メイン方式」や「偏差値の最高値」のみなので、それらの方式の偏差値を「意図的に上げる」ことで「レベルの高い大学・人気のある大学」と受験生などに認識されることで宣伝になり、大学の価値を上げようとする企みである。
    • 合格者数を高いレベルの受験生に絞り込むことで「合格者平均偏差値」においても「ボーダー偏差値」においても、実態より高い数値に操作できる。その「合格者」は、より高いレベルの大学に合格しているため、当該大学には入学しないが、他の方法(メディア掲載や予備校が大学比較に用いない方式)で学生を確保する。対外的に示す「偏差値を出すこと」と「実際の学生確保」を別個に行っている。

「偏差値=大学のレベル」の指標としての破綻

以下の要因により一般選抜を想定している「偏差値」は、「その大学のレベルを表すもの」ではもはやなくなっている。

2022年時点で、河合塾の数学科講師は、実態は偏差値50の大学が偏差値60として算出されるなど、「大部分の私立大学の偏差値は崩壊している」と指摘している。

  • ①. 年内入試の広まり

予備校が出す大学の「学力偏差値」は2月~3月に行われる「一般入試(学力により合否が決まる)」の結果によるものだが、大学の間で「年内入試(9〜12月に実施・合否が出る推薦入試)」により受験生を確保する「囲い込み」が広がっている。
一般入試で大学に入学する割合は、2000年代前半では7割程度だったが、2021年時点で半数程度になり、2023年度入試の結果としては私立大学の入学者中の4割程度になっている。

高校側も「明治大学の系列校化により、卒業後に7割が明治大学に推薦合格をする体制を目指す」日本学園高校や、生徒100人に対して、400人分以上の指定校枠を揃える横浜女学院など、「指定校推薦を増やすことが生徒募集の強みになる」「一般入試で複数校を受けるより推薦1校で決まれば受験費用も安く済む」など年内入試に移行している。

年内入試が広まるにつれ、一般入試の難易度を示す学力偏差値の意味は薄れ、リクルート進学総研所長は「大学選びの軸が偏差値しかない時代ではなくなった」としている。

  • ②. 競争試験としての模試が機能しない

18歳人口は1992年時点では205万人だったが、2024年では106万人とほぼ半減している。受験人口が多いと、ある一定の学力よりも上の層だけを対象に有意差を生むような出題ができるなど、競争試験としての模試が機能しやすい環境が可能となるが、現在は、18歳人口が減少する一方で、大学入学定員は増加しており、大学入試における競争率が大幅に低下している。
      ①高校卒業者数/ ②大学進学希望者数/ ③大学入学定員/ ④大学進学者数

  • 2000年代前半(①約130万人/ ②約75万人/ ③約54万人/ ④約60万人)大学進学率:約40%
  • 2019年   (①約106万人/ ②約67万人/ ③約61万人/ ④約63万人)大学進学率:約54%

2014年、「私立文系」および「浪人生」に強みを持ち「三大予備校」の一つとして数えられた「代々木ゼミナール」は、「少子化による受験生の減少」「現役志向による浪人生の減少」「私立文系の人気低下」により、規模縮小を行い、全国模試を廃止し、大学偏差値の公表も撤退している。

偏差値による序列化をコンテンツにしたSNS表現の過熱

学歴こそを人の評価の基準とすることに強いこだわりを持つ者は「学歴厨」と呼ばれている。動画サイトの普及に伴い近年、YouTubeなどにおいて、人を学歴だけで賞賛したり嘲笑したりすることをコンテンツとする動画が発信されるようになり、そのような動画の再生数が伸びる一方、批判の声が上がっている。

日本における学力偏差値の成立と広まり

学力偏差値の初期の使用例には、丸山良二の1926年の論文「學力の測定」がある。また丸山と田中寛一の1929年の書籍『小学校に於ける職業指導』にも偏差値について記載している。いずれも数式を用いた定義とともに記されている。

1957年(昭和32年)、東京都港区立城南中学校(当時)理科教員であった桑田昭三は偏差値を用いた進路指導を始めた。試験の偏差値をもとに高校の合格見込みを割り出し、進路指導に用いというものである。桑田が科学的な進路指導を志したきっかけは、数年前に担任した生徒が希望する高校を受けて不合格になったことだった。1961年、桑田は城南中学校出入りのテスト業者である進学研究会に偏差値の算出を依頼した。桑田は1963年に進学研究会に転職し、偏差値を社内で啓蒙する。その2年後には、偏差値は点数と順位に代わって、進学研究会でテストの成績や進学情報を表す主要な方法となる。

偏差値は1965年ごろから広まり出し、大学受験では、旺文社の『螢雪時代』1965年8月号の付録に初めて偏差値が登場する。1970年代前半には、全国津々浦々の地方の業者テストや学習塾などにまで広まるようになる。生徒の受験校を偏差値によって切り分けるような「輪切り」と呼ばれる進路指導がなされるようになる。1975年には複数の新聞が反偏差値キャンペーンを展開した。

偏差値は特に中学校で批判を浴びるようになるようになり、1993年2月、文部省(当時)が「(中学校で)業者テストによる偏差値等に依存した進路指導は行わないこと」を国公立教育行政機関に通達する。これにより、国公立中学内での業者テスト(模試)の実施が禁止になった。

現在の日本では、学力偏差値は中学受験、高校受験、大学受験などを含む学力試験で広く用いられている。中学受験では、大手塾は、模試での得点分布を元に、各中学校の「合格可能性80%偏差値」を算出し、公開している。

意見

  • 森口朗(教育評論家)は、『偏差値は子どもを救う』(森口 1999)で偏差値で学力を測定することの妥当性と限界を示した。
  • 桑田昭三は進路指導に学力偏差値を使い始めた一人だが、学力偏差値が不本意な使い方をされてしまったことを悔やみ、1981年に偏差値を用いる業界から離れた。
  • 朝比奈一郎(元通産省官僚)は、昭和の後半から平成の時代にかけて顕著だった偏差値教育について、科挙と同じような弊害を日本にもたらしたのではないかと指摘している。

日本以外での使用状況

日本以外でも学業成績の評価に偏差値(Tスコア)を用いることはあるが、日本ほど広く用いられている国はない。特に、学校の入学難易度の指標として偏差値を用いるのは、日本特有の慣行である。

韓国の大学入学共通試験「修能」では、結果が標準点数・百分位・等級の3つの方式で表示される。そのうち社会と科学では、標準点数は偏差値そのものである(平均50、標準偏差10)。一方で国語と数学では標準点数が平均100、標準偏差20である。

偏差値は平均50標準偏差10に標準化した得点だが、それとは異なる様々なスケールを用いた標準化テストが存在する。例えばアメリカのSATは平均500標準偏差100、GREでは平均150標準偏差8.75に概ねなるように設計されており、イギリスのSATsでは平均100標準偏差15である。

脚注

注釈

出典

参考文献

  • 森口朗『偏差値は子どもを救う』草思社、1999年10月。ISBN 4794209223。 
  • Lodico, Marguerite G.; Spaulding, Dean T.; Voegtle, Katherine H. (2010). Methods in Educational Research: From Theory to Practice (2nd ed.). John Wiley& Sons. p. 93. ISBN 9780470436806. OCLC 495547194. https://books.google.co.jp/books?id=91t15L6HYDIC&pg=PA93&lpg=PA93#v=onepage&q&f=false. "Many standardized measures report student scores as standard scores, allowing a direct comparison of student performance." 

関連項目

  • 偏差値操作 - 大学などの教育機関が、推薦入試等で大量の入学者確保、一般入試の募集人数削減、受験方式増加増、受験科目数減、複数回受験可能などをすることで一般入試の競争率を高めて実態以上に高い偏差値へと工作すること。
  • 知能指数 (IQ) - ボーダーフリー(通称:Fラン)
  • 業者テスト/模擬試験 - 学習塾/予備校
  • ゆとり教育 - 学習指導要領
  • 入学試験 - 小学校受験/中学受験/高校受験/大学受験 - 大学入学共通テスト
  • 学歴/学歴信仰/学歴フィルター/スクリーニング

外部リンク

  • 偏差値について考える
  • 偏差値の算出方法|スタディピア
  • 『偏差値』 - コトバンク

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